ある朝の手紙


 朝起きて、まず最初に向かうのは洗面台。
 そこには大きめの鏡が掛けてあり、映った寝ぼけ顔は弟そっくりだった。


(そりゃそうや、双子なんやし)


 あほらし、と漏らした日滝(ひなた)はさっさと顔を洗い、着替えを済ませて食卓へと向かった。


 すると弟から手紙が届いている旨が耳に届いた。
「どうぞ」
 お手伝いさんの差し出した封筒を見やる。横長の白い封筒だ。藤の花の形をしたシールできっちり封をされていた。
 自室でそれを開封した日滝は思わず脱力した。
「……あいつ、何しに行ったんかわかっとんのか……?」
 当主になれない弟は、母親から良き人材を集めるための道具として扱われた。
 そんな弟からの手紙。
 内容は、


『黒兎を飼い初めたんやけれど、どんな名前がええかな?』


「……あいつ変わってなさすぎや」
 ノートを切り取り、日滝は弟へ本当に簡素な返事を書いた。
『連想したもんから適当につけたら良い』


 数日後、それに対しての返事があった。まさか報告まであると思っていなかった日滝は内心驚きつつ、封を切る。今回は菖蒲のシールだった。
「………」
 絶句する日滝。
 まあ、連想しろとは書いた。
 書いたが。


『アドバイスありがとうな!早速連想してんけど、兎=バニーでな……』


 ここで一体なにを思い出したのか、少し間を開けたらしく字の太さが微妙に変わっていた。
 続きはこうだ。


『せやからな、まあ黒兎は立派な男の子やねんけれど』


『バニーの「ばーさん」に決定や♪』


「……あほらし」


 口癖を言うと、日滝は返事を机の上へ無造作に放る。

 放って、ノートの二枚目を綺麗に破り取った。


▼END▼

 

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